会長挨拶

会長 内藤 順
 

沖理事長 現在我が国では超高齢化社会を迎え「健康長寿」という言葉がよく聞かれるようになりましたが、介護が必要な高齢者も多数いらっしゃいます。
 我々歯科界では以前より「8020運動」(80歳で自分の歯を20本以上残しましょうという活動)を推めてまいりましたが、80歳以上の高齢でありながらお元気な方の多くが 20本以上のご自分の歯を有していてしっかり噛める状態であることから提唱されました。 つまり高齢になっても元気でいる為の秘訣はしっかり噛めることだと言えます。また不幸にして歯を失い「部分入れ歯」または「総入れ歯」になったとしても、きちんとした入れ歯でしっかり噛めていれば歯がある方と同じように健康でいられることも示されています。
 我々歯科医は一本でも多くの歯を残せるように努力していますが、一方で歯を失ってしまった方にきちんとした入れ歯を制作し、しっかりと噛めるようになっていただけることも念頭に置き日々研鑽・努力を続けています。失った歯を補って噛めるようにする補綴(ほてつ)歯科には冠・ブリッジ・インプラント・義歯(入れ歯)等様々な方法がありますので歯についてお悩みの方は遠慮無くご相談頂ければと思います。

 

 

 教授挨拶

講座紹介
咀嚼(そしゃく、噛む)が創る健康長寿を目指して
日本歯科大学生命歯学部 歯科補綴学第一講座教授 志賀 博
 

志賀教授 本年の敬老の日(2013年9月15日)に、65歳以上の高齢者人口の割合が総人口の25%、すなわち4人に1人が高齢者になったことが総務省から発表されました。この高齢者人口は、約20年後の2035年には、3人に1人となることが推計されており、超高齢化時代が続くことが予想されています。一方、厚生労働省の発表では、平均寿命(2010年)は男性が約80歳、女性が約86歳と高いものの、介護を必要とせず自立して生活できる生存期間である健康寿命(2010年)は男性が約70歳、女性が約74歳であり、平均寿命との間に約10年の差があります。この差を小さくすることが望まれております。
 そこで、健康寿命を延ばすため多くの試みがなされている中、厚生労働省の「健康日本21」で、歯・口腔の健康に対する目標が掲げられました。「健康日本21」では、“健全な口腔機能を生涯にわたり維持することができるよう、疾病予防の観点から、歯周病予防、う蝕予防及び歯の喪失防止に加え、口腔機能の維持及び向上等について設定する”としています。健全な口腔機能を維持するためには、咀嚼(噛む)できることが求められます。
 咀嚼は、食物を歯で咬みくだいて、飲み込みやすくするだけでなく、お口の中を刺激して消化液の分泌を促進したり、内臓の働きを助けたり、唾液の分泌の促進による食物の発がん性物質の働きを抑制するなどの効果があるといわれています。また、脳の活動を活発にし、リラックス効果や肥満を防止する効果なども報告されています。この咀嚼をうまく行うためには機能する歯があることが重要となります。
 8020運動(80歳で20本の歯を残す)の推進や国民の皆様の口腔健康への関心の高まりにより、いずれの年代層においても現存歯数(残っている歯の数)が増加傾向にあります。平成23年度歯科疾患実態調査では、  80~84歳で20歯以上の歯を有する者の割合が28.9%であり、平成17年の調査時の21.1%からかなり高まっていることが報告されています。しかしながら、これらの報告は同時に、依然として歯を失っている人が多いことも示しています。
 歯を失うと、「咀嚼(噛む)」  、「飲み込む」、「しゃべる」などの機能の低下が生じ、また歯の周りの組織や骨の喪失を伴い、口元や顔の自然感が損なわれます。しかしながら、義歯(部分入れ歯や総入れ歯など)を装着し、咬みあわせを改善することにより、機能が改善し、口元や顔の自然感が回復します。何より、おいしく食べられるようになります。歯があっても咬みあわせが十分でないと、咀嚼の機能が改善せず、おいしく食べられないかもしれません。
 生命予後の調査では、義歯使用者のほうが義歯不使用者よりも生存率が高いこと、かかりつけ歯科医を有する人のほうが有さない人よりも生存率が高いことが報告されており、機能を含めた口腔のケアが生命予後に強く関わっていることが明らかにされています。
 咬み合わせと咀嚼の機能の回復、維持のためには、咀嚼機能を客観的に評価することが必要となります。そこで、当講座では咀嚼機能に関する臨床研究を長年にわたり行ってまいりました。その結果、下顎運動検査法とグミゼリー咀嚼による咀嚼能力検査法が、平成23年に先進医療(技術名:有床義歯補綴治療における総合的咬合・咀嚼機能検査)として採用されました。この検査は、簡便かつ短時間に咀嚼の機能を評価することができるものです。ご自身の咀嚼(噛む)機能をお知りになりたい方は、当講座(03-3261-5729)にご連絡いただければ、対応させていただきます。
 咬み合わせと咀嚼の機能を回復させ、それを維持することにより、口腔の健康、ひいては全身の健康へと拡がり、健康寿命を延伸することに寄与できればと考えております。